Reports活動レポート

VHAインパクトモデル策定支援者インタビュー

イベントレポート2026.03.06

VHAが提供するプログラムの一つである「インパクトモデル策定支援」の講師であるお二人にVHAについてお話を伺いました。

(左)後町陽子氏 (右)千葉直紀氏

ーーVHAでの役割を教えてください。

後町さん:コーディネーター(以降、CD)とインパクトモデル作成支援を担当しています。CDは定期的に壁打ちしながらところどころ支援する、インパクトモデルは、千葉さんと共にVision Hackerが描くビジョンの実現に向けてどういう道筋でアウトカムを出していくか、可視化する取組みをしています。

千葉さん:起業家の横で伴走しながら、「今の状態はこう見えていますよ」と鏡に写したり、起業家が一番輝くようにレフ版の角度を調整したりするような役割イメージを持っています。起業家とメンターと事務局の間に立ちながら、翻訳や必要なサポートをしています。

ーーお二人は、VHAのどういうところに共感して引き受けられたかお聞かせください。

千葉さん:私はVision Hackerというワードにまず引っかかり、それ自体が大きなビジョンだと思いましたし、そういう人たちを増やしていくというコンセプトの壮大さに惹かれました。自分もずっと医療の領域で挑戦してきたので、自分だけでは成し遂げられないことを、仲間としてたくさんのチャレンジャーたちを応援したいという気持ちがすごくあり、コンセプトと分野やテーマに惹かれました。

後町さん:私は、本業でヘルスケア領域において社会課題解決事業のビジョン実現を目指す起業家の支援をやっていることもあり、ご依頼をお受けしました。プログラムのコンセプトや参加者はもちろんですが、運営陣やメンターの方々も、それぞれのビジョン実現に向けて様々なご活躍や貢献をされていて素晴らしいと思います。

ーーご自身のキャリアのどのような部分がVHAで生かされていると感じますか?

後町さん:普段から投資先と共にロジックモデルを作ったり、それを活用して事業のブラッシュアップなどをしているので、一番生かされているのはその部分です。詰まりやすいところや、引っ掛かりやすいポイントをある程度分かっているので、そういう時に視座を上げる問いを投げかけるなど、サポートできることがあると感じています。多くの方が陥りがちなのが、「医療費削減」や「QOLの向上」など自分が実現することでなく、〝一般的に社会に求められること〟をそのまま表現してしまうことです。その人ならではの目指す世界観を出していかないと、事業の特徴が伝わらなくて勿体ないと感じます。その他、私自身も医療を良くしたいともがきながら、試行錯誤し、チャレンジして来た経験があるので、なかなか成果が出ない時にも伴走することができるのではないか、と思っています。

ーーVHAの関係者には、医療分野が強い方の他、コンサル関係が強い方などいらっしゃる中で、後町さんはその両方に長けていらっしゃる。医療の中の人であったからこそのご助言も多いですか?

後町さん:医療業界は規制があったり、ネットワークの中の人と外の人と分けがちだったり業界ならではの特徴があるので、正面からぶつかった時の突破口がどこにあるのか、などを一緒に考えることはできると思います。

ーー千葉さんもどのような部分がVHAで生かされていると感じますか?

千葉さん:これまでの自分自身の価値創出の模索がVHAでも続いている気がしています。病気を経験したことから、当事者としての苦しみも分かりますし、その経験から医療分野で起業し、5年くらい本気で取り組みました。なので、うまくいかない状態や決められない状態という事業者の苦労も肌感覚で分かります。そして、その際、いろんな伴走支援者の方にも出会いまして、エンパワーメントされる支援と、逆に吸い取られる支援とがあることにも気づきました。その二つの違いは何だろうかと、すごく考えまして、そこで得られたことがVHAの伴走支援にとても生かされてると感じます。

ーー「吸い取られる支援」というのは、具体的にどのようなものでしょうか?

千葉さん:ミーティングをすると、やたらタスクを課せられ、物理的に時間も無くなって、ひたすらどんどん辛くなっていって、できていないと、問い詰められて、精神的にも追い詰められるような悲惨な経験をしました。そうした経験から、相手の状況を見極めて、詰めるべきか、距離を取るべきか、相手が一番力を発揮できる距離感や間合いを考えるようになりました。以前、メンタリングで、メンターから正論を突き付けられ、心を閉ざしてしまった参加者がいらっしゃったのですが、その直後に電話で、「正論は受け止めつつ、サステナブルに、一番力が発揮できる仕事の仕方を考えましょう」と、伝えたことをきっかけに、話を進めることができたので、自分が苦労したことも役立ったと思いました。ちなみに、その正論のお陰で、現在、その方の組織は良い方に向かい感謝していらっしゃいます。

ーー「インパクトモデル策定支援」は、VHAプログラムの大きな軸の一つですが、その中で生み出される〝社会的インパクト〟の意味を教えてください。

後町さん:社会に対するポジティブな影響です。

千葉さん:定義としては、「社会的・環境的なアウトカム(対象者の望ましい変化)」ですが、後町さんと同じ意味で、具体的には、何か社会課題が解決されたり、新しい社会的価値が創造され、望ましい社会に近づいていることを意味します。

ーー事業やビジネスでは、利益=経済の最大化、と捉える方が多い中で、それ以外のポジティブな利益もあることに気づかされるのですね。では、VHAにおけるインパクトモデル策定担当者の仕事内容を教えてください。

後町さん:一言で表現すると、事業のゴール・実現への道筋の言語化や可視化のお手伝いです。

千葉さん:そうですね。具体的には、キックオフセッションで少し触れていただき、特別講座でインプットしてもらって、その後は壁打ちです。起業家の目的や状態を加味して、個別にオーダーメイドでインパクトモデルの作り方を調整していきます。その場で終わらないので、次回までの宿題を確認して、次の壁打ちに臨んでもらいます。

ーー確かに、例えば、ゴールとして、「美味しいを届ける」と掲げていても、「美味しい」を細分化すると、「衛生がしっかりしているもの」や「品数」、「ゴージャスさ」など、様々ある中で「目指すべき美味しさとは」ということを、しっかり言語化してくれる役割なのですね。次に、インパクトモデル策定する際、大事にしていることは何ですか?

千葉さん:目的の設定(なぜ作るのか)と出口の設定(どう使いたいのか)を確認し、それを進めるためのプロセスの活用を意識しています。目的と出口を確認しておかないと、インパクトモデルを作ることが「作業」になってしまうので。事業上の課題を確認し、インパクトモデルで何が実現出来たら良いのか考えると、そこにあった進め方を他者やチームと一緒に考えることもできるようになります。

後町さん:取り組むのは誰の課題なのか、事業を通して起こそうとする変化の一つ一つがアウトカムになっているかをディスカッションしています。とくに序盤はアウトプット(直接生み出すもの)とアウトカム(起こす変化)を混同してしまうことがよくあります。また、その人らしさ、そのチームらしい表現にすることも大事にしています。作って終わりではなく、使うためのものなので、使う前提で作ることも大事だと思っています。

ーー策定時に「誰の課題か」を大事にしているとのことですが、「困っている方に」や「患者さんに」と、「誰」の設定を大きく捉えている方も多いかと思います。その場合、どのような対話でターゲットを絞り込んでるのですか?

後町さん:策定する際、右側にアウトプット、アウトカムを書いて、左側にインプット(自分たちが持っているノウハウやリソース)を書き出します。そして、例えば、「誰の」を「日本全国民」というように大きく設定していても、「起こせる変化」は結局、自分たちが持ち得る物からしか出てこないので、インプットとアウトプット・アウトカムを行き来し、今、変化を起こせる対象は〝ここだ!〟と見極めていきます。課題を見詰める時に、社会の方ばかり見てしまいがちですが、自分やチームの強みやリソースを見直すことも大事だと思います。

ーー対象を特定することが、自分たちの強みを見つけることにつながるのですね!では、インパクトモデル策定の難しいポイントはどんなところですか?

千葉さん:アウトプットを作って満足してしまいがちなことです。作ったインパクトモデルに照らして、意思決定に入れたり、事業の改善に活用することが抜け落ちることがあります。組織面や財務面の課題は扱いづらいですが、インパクトモデルを作るプロセスや作ったインパクトモデルの活用を通じて財務や組織の課題にも貢献し得るので、うまく設計できると良いなと思います。

後町さん:つい初めから完璧なものを作ろう、としてしまいがちなのが難しいポイントだと思います。インパクトモデルは、一度作って終わりではなく、やりながら更新していくことが重要です。事業の構築フェーズでは、事業の見通しが100%見えていることはないので、初回から最終形を完成させることはなかなかできないと思います。

ーー完璧なものではなく、近しいものから始めて、やりながら見えて来た課題と出て来た強みを得て更新していくものなのですね。これまで、インパクトモデル策定で参加者や組織が好転した!逆に参加者とぶつかったなど、印象深いエピソードがあれば教えてください。

千葉さん:良いことがあったのは、参加された全員だと感じています。その中でも、作る過程で人を巻き込めた人は大きく好転したように見えました。VHA卒業以降も、インパクトモデルを作り続けていて、地域の人とのコミュニケーション促進につながっているとか、行政からの事業採択が決まったなど、ご連絡をいただいています。逆に、作る過程もすべて一人だった方は、上手く活用できずに終わってしまったので、人を巻き込むことができていたら違ったかなと思います。

後町さん:ぶつかることはほぼ無いですね。最終的にその時点での正解は起業家しかもっていないので、ご本人が描いたものを軸に活用していきます。事業はやってみないと分からないところがあるので、やりながら事業を改善し、インパクトモデルもアップデートしていく姿勢が重要だと思います。また、千葉さんとは対照的に、私はまず「一人で考え尽くすべし」と伝えています。インパクトモデルは起業家の意志を表すものだと思います。起業家と同じかそれ以上の強い意志をコミットしている人がいる場合は早い段階から巻き込むのもありだと思いますが、原型ができる前に、周囲の人を入れると、「一般的な表現」が多くなったり、「誰にも刺さらない芯がない内容」になりやすいと思います。なので、一度起業家が一人で考え切り言語化や洗練度を高めた上で、メンバーや周囲の人を巻き込むというステップが大事だと思います。

ーーインパクトモデル作成を希望される方、または希望するか迷っている方に向けて、一言メッセージをお願いします。

千葉さん:やって後悔することは無いと思いますので、自分が改めてどんな課題に立ち向かいたいかとか、考えたい時に活用していただければと思います。その際は、ぜひ、人の力を借りて壁打ちすることをおすすめします。

後町さん:インパクトモデルを一度作ると、自分が目指すところと足元がどうつながっているか道筋が見えるようになります。自分が確認するだけでなく、仲間とも共有することでチームの意識がまとまり、日々の仕事に優先順位をつけられるようになったり、誰を巻き込むべきかが明確になったりします。ビジョンと現状のつながりを明確にしたいという課題を持っている人はぜひ作成されたら良いと思います。

PROFILE
千葉直紀氏(株式会社ブルー・マーブル・ジャパン代表取締役)
社会的インパクト・マネジメントや発展的評価、組織診断等を通した社会的事業の開発・改善、組織のマネジメント支援を専門としている。セクターや分野を問わず、数多くのソーシャルベンチャーや社会起業家、NPO、事業会社、投資会社などを支援してきている。SIMIにおいて社会的インパクト・マネジメントのガイドラインづくり、GSG国内諮問委員会においてIMM(インパクト測定・マネジメント)のガイドブックづくり、休眠預金活用事業において社会的インパクト評価の指針づくりに携わるなど、日本における社会的インパクトの実装を進めるためのインフラづくりに様々な形で携わっている。SIMIでは、インパクト志向の資金提供者向けのトレーニングであるインパクト・アナリスト研修を担当している。日本民間公益活動連携機構(JANPIA)評価アドバイザー。

後町陽子氏(株式会社キャピタルメディカ・ベンチャーズ ディレクター/薬剤師 / 経営学修士)
薬学部卒業後、JICA青年海外協力隊でガーナ国にて国際保健活動に従事。帰国後、病院・薬局にて臨床経験を積んだ後、病院経営コンサルタントとして、オペレーション改革・組織改革、人材マネジメント支援、ヘルスケアスタートアップの育成プログラム運営等を担当。外資系コンサルティングファームにて製薬企業向け戦略コンサルティングおよびDX支援を経験後、現職にて投資・投資先支援等を担当。

活動レポート一覧へ