アクセル全開!Vision Hacker Association2025キックオフセッション開催
イベントレポート2025.10.12
2025年9月6日-7日で、Vision Hacker Association(以下VHA)の2025年度キックオフセッションが開催されました!
VHAが厳正なる審査により採択した新たなVision Hackerたち。それぞれ医療とヘルスケア領域を起点とした、より良い社会を目指す大いなる挑戦者たちです。
◆参加者の本気度が試される熟考されたVHAプログラム
これから半年間、「VHAのオリジナルプログラム」が始まります。起業家支援関係者の間で〝手厚い〟と高評の熟考されたプログラムは、手取り足取りして、参加者が受け身でいられるものではありません。寧ろ、掲げた目標を根底から覆されるような厳しい助言を受けながら、仮説を立て、トライ&エラーを経て、内省と洞察を行い、再び仮説を立てる、という地道な作業を何回、自発的に取り組めるか、参加者の本気度が試されるものとなります。
過去の参加者の中には、このプログラムを経たことで、「事業を止める」という決断に至った方もいました。「描いたビジョンを叶えよう」という甘美な言葉に酔いしれるのは容易いですが、VHAは現実に事業を進めた際、起こり得るリスクに対し、〝勇気ある撤退〟という選択肢も起業家として必要な要素であるということを伝えます。それは、起業家たる者、事業に関わるすべての人たちにとって最善の状態を考える責任がある、と考えているからです。世に大きく打ち出す手前に、VHAのプログラムを体験することで、逆境にも揺るがない強い信念と、それを裏付けする根拠を手にし、描いたビジョンを叶えていって欲しいと願っているのです。
◆VHAを支えるコーディネーター、メンター、運営陣
そんなVHAのプログラムを支えるのは、まず、「コーディネーター」と呼ばれる存在です。彼らは、Vision Hackerが掲げる事業と親和性のある経験を持つ専門家で、一人につき一人設けられます。事業目標や課題、ビジョンなどの整理だけでなく、日々の悩みにまで相談に乗り、半年間Vision Hackerの傍で伴走し続けサポートします。
次に、「メンター」の存在です。彼らは、まさに百戦錬磨と言える類まれな経験と専門性を持ち、採択されたVision Hackerが掲げる目標設定の見直しや、新たな視点の付加、スケールのサイズや長期的視野の取り入れ、事業仮説の検証などを助言します。その助言は、必ずしも耳障りが良いものばかりではなく、事業が社会に大きく出た際に、予測される厳しい声や陥るであろう事態を事前に伝える、云わば、「現実の壁」といった役回りを敢えて行います。Vision Hackerは、メンタリングにより根底から揺さぶられることになりますが、自己と向き合うことから逃げず、進化していくことで事業の解像度を上げていくことができるのです。
そして、VHAの入り口でもあり、全体を包括するのが事務局(企画主催:公益財団法人葉田財団、運営支援:特定非営利活動法人ETIC.)です。事務局は、前述三者の連携がスムーズに行われるよう計らい、半年間のプログラムを執り行う縁の下の力持ち的存在です。
◆キックオフセッション内容
さて、VHAプログラムのスタートラインとなるキックオフセッションの大きな目的は二つ。1)同期の仲間と知り合う 2)事業をブラッシュアップする です。
◎DAY1
初日は、Vision Hackerとコーディネーター、事務局のみ参加の 目的1)同期の仲間と知り合う ためのプログラムです。自己紹介と事業紹介に始まり、自己/顧客理解を深めるためのインタビュー、そして、事業展開により起こり得る変革を戦略的に設計する「インパクトモデルの作成支援」のミニワークが行われました。
★自分と顧客を知ろう! ディスカバリーインタビュー
「ディスカバリーインタビュー」では、VHA作成のインタビューシートに沿った質問事項にVision Hackerが回答し、その回答を聞いた感想をヒアリング、つまり、自分の事業内容や想いが「顧客」にどう写るか、そして、自分の現状をも知るための試みです。
このプログラムにより、掲げる課題の背景が全く知られていないことに気づいたり、社会課題に取り組む者同士の共感、また、自分が想定している立ち位置(伴走者)とは異なる立ち位置(指導者)への可能性を得た、といったフレーズが聞かれ、各々新たな発見があったようでした。

★誰のどんな状態を実現したいか=アウトカム インパクトモデル作成
専門講師による「インパクトモデルの作成」のミニワークが行われました。「誰がどうなれば、事業の成功となり、大きな問題から細かなニーズを出して、それがどうなれば解消されるのか(アウトカム)」を話し合ってみました。

その結果、
「事業の問題のスケールが大き過ぎるため、解決には中央政府が動く必要があると感じ、自分の事業に落とし込むことが難しく感じた」という意見や、「事業の成功の定義が難しい場合、どう考えれば良いのか分からなくなった」という声も挙がりました。
そこで、別の専門講師から補足として、
・自分が意図や意志をもって変えて行くことを指す。
・結果的に起こるであろう「良い知らせ」は含まない。
・意図して影響する人たちのことは全員入れて考える。
・時間軸も入れてインパクトモデルの構造を作る。
といったアウトカムを導き出す際の〝ルール〟が提示され、少し解像度が上がったようでした。
「インパクトモデルの作成」プログラムは、キックオフセッションの後に、希望者のみ本格的な指導が始まります。概念に触れること自体が初めてで戸惑う様子のVision Hackerたちが、どのような「インパクトモデル」を完成させるのか楽しみです!
そして、コーディネーター面談で、翌日のメンタリングに備えた話し合いが行われ、初日プログラムは終了しました。

全国各地から集められた境遇も考え方も異なるまったく初対面のVision Hackerたちは、共に歩む仲間として、社会のどのような部分に課題を抱き、どのような挑戦をしようとしているのか、終始和やかながらも密度の濃いやり取りがなされ、それは、確かに〝人生の大きな分岐点〟に立った者たちの出会いのワンシーンでした。
◎DAY2
★メンター登場!
二日目は、いよいよお待ちかねのメンター陣の登場です。昨日とは異なり会場に張り詰めた緊張感が漂います。
まずは、Vision Hackerによる「事業紹介と6か月後に目指す姿とゴール、注力したいテーマや課題、検証したいこと」の3分間ピッチが行われました。

続いて、メンターの自己紹介とメンター同士のトークセッションが行われました。
★タダモノではないメンターたち
今回参加されたメンターは、4名(年により変動)。グローバルヘルスに精通し、海外でも活躍される医師、幅広く多様なフェーズで100万人とソーシャルビジネスに関わって来られた起業家、また、カンボジアやタンザニアに医療/教育機関を設立し、「世界で医療の届きにくい地域へ支援を届ける活動」を続けてきた医師であり事業家でもある方、そして、「すべてのセクターで常に働いており、どこから来ても大丈夫」と言い切る事業開発専門家で、自己紹介の段階で〝タダモノではない感〟が伝わってきました。
(メンバーは年次により変わります。最新メンターリストはこちら)
★メンターセッション
続いて、この半年間効率的にメンター陣を活用してもらうために、〝メンターセッション〟へと移りました。モデレーターに事務局が立ち、お題を投げ、それぞれメンターに回答いただくことで、深堀りのヒントを得ることができました。

Q1. 事業を磨くコツを教えてください。
A1. 磨く余白を残しておく。
事業計画を考えると、「それ通りやればうまく行く」と思い込んでいる人がいるが、本当は計画を磨く必要があり、育てなければならない。故に、何度もピボットすることになる。しかし、その時、仲間たちと目線が合っていなければ、「言ってることがたびたび変わる」と不信感につながってしまうため、人事採用の時にもこのポイントが必要となる。また、創業期は、一人3、4役は当たり前にこなす必要があり、役割以外のことはしないタイプの人は向いていない。事業は「やり切ること」が大事である。
A2. 疑うこと。その一方で、信じること。
これまで数回倒産しかけた経験から、信じたことに突き進みながらも、磨き込みを止め、方法論を常に疑うことが大事だと思っている。そして、「資金が足りなくなるのはチャレンジするからであり、足りなくなったら他から足せば良い」という考えに至った。濃淡はあるものの、自分たちに向いている世界は、みんなにとって良いものである、という想いはぶれないため、疑う余地もなく信じられる。
また、「医者は、安定した高額収入が確保されるため、起業しても事業を磨く手前に止めてしまう人が多い」という現実についても苦言が述べられました。

Q2. 政策に取り組みたい・制度を変えたい人へアドバイスをお願いします。
A1. 途上国の課題を解決をする時に大事なことは、自分が行動しないと大勢の人が死んでしまう状況下にある国の人たちと、帰国したら安全な生活が保障されている日本人とでは、危機感が違うということを把握しておくことが大事。
また、本当にそれが社会課題なのか?勝手に可哀そうな人たちがいる、と自分で作りあげていないか?最初によく検討すべき。
そして、政府に働きかける時は、99%うまくいかない。その理由は、良いと思っているのは、本人たちだけというパターンの「課題設定が間違っている」場合や、自分たちが思いついたことは、既に役所は思いついていて、できていない理由があるという場合がある。その時、「なぜ、自治体ができていないのか?」の解像度を掘り下げる必要がある。
Q3. 自治体と連携を希望する人が考慮すべきことを教えてください。
A1. 行政との議論は一般傍聴やオンライン上で知れることも多くあり、「調べたけれど無い」ではなく、自分から情報を取りに行こう!
A2. 自治体と対話していくことが大事。分からないことは聞く。自分たちのやりたいことと、できることを話していく。
A3. 〝最強の営業マン〟は、ずっと質問して相手の言葉を引き出す。
A4. やりたいことは同じでも、使うキーワードが違うことが多いから、聞きながら進めることが大事。行政は遠く感じるが、担当者という「人と人との付き合い」である。行政の困り事に、自分ならどう関われるかを考える。
A5. 自治体へ営業に行く時は、投資予算を全部見て、演説を全部読み、自分たちと関わるところをピックアップして、その上でその地域の歴史などを学び、その地域の中で知り合いを探し、その地域に入っていく。自分たちから売りたいことを話す前に、まずは相手の話を聞くこと。
ちなみに、自治体の声を代弁すると、
「ピンポイントの売り込みには、対応できないため、幅をもたせていて欲しい」という考えがあることを念頭に置いておくことも大事。
A6. 自治体の中で優先順位があるため、今がダメでも、次の機会につながることもあるので、余白をもったコミュニケーションをしておくこともコツ。
A7. うまくいかない時は潔く撤退することも大事。
★メンタリング開始!
ここまででも、十分重要な言葉のシャワーを浴びたVision Hackerたちですが、メインイベントとなるメンタリングの開始です!
自分が温めて来た事業と課題に対するメンターたちからのダイレクトな指摘が如何なるものか、Vision Hackerたちは、「挑戦者」の顔となり、会場は一気に熱量を増していきました。
メンタリングは、グループに分かれ行われました。メンターは、Vision Hackerによるクイックなピッチと事前に提出共有された資料を元にメンタリングを行いましたが、連投されるシャープな質問と、得た回答の情報分析と判断の速さには、目を見張るものがありました。Vision Hackerの回答を受け、その思考で行き着く結末を見極めた上で、目標との乖離や矛盾を瞬時に指摘する、といった具合で、Vision Hackerたちは、これまで取り組んで来たことを根底から再思考させられるような時間となっているようでした。

★厳しくシャープな指摘の連続で高速回転する脳内
例えば、「資金調達の方法を得たい」と相談するVision Hackerに向けて、小手先のテクニックではなく、問題の原因となっている人たちに、関心を持ってもらうための方法は今のままで本当に良いのか?と助言。それは、事業の取り組みそのものの見直しであり、事業を始める以前の状態にまで引き戻される感覚に陥ったであろうものでした。
また、別のメンタリングでは、「実は、自分はビジョンを立てる意味が分からず、それがコンプレックスだった」という告白をしたVision Hackerもいました。しかし、この衝撃発言にも怯むこと無く、間髪入れずに、「なぜ、ビジョンが無いのだと思いますか?」と問いかけ、黙するVision Hackerに、「それは、満足しているからでしょう?目標を大きくする必要など、無いのではないか?つまり、目標セットが間違っている」と、まさに目から鱗の指摘をされ、それまで曇っていたVision Hackerの表情が一気に明るくなった、ということもありました。
また、課題を掲げながらも、行動が伴っていなかったVision Hackerへは、「創業者は一番の営業マン」として動かなければならないのに、長期にわたり動けていない現状は、課題をとらえられてないからだ、と厳しく指摘。
更に、「何を実現したいか?」の問いに「対象者の安心感を増やしたい」と回答したVision Hackerへは、「それはミッションであり事業ではない。君のポエムだ」と一刀両断。
一見、容赦ないように聞こえるメンタリングでも、実は、Vision Hackerのキャリアや年齢を踏まえた上で、違うステージの言葉が選ばれているという高度な配慮に基づいて行われていることに驚かされます。
★宣言ピッチ
怒涛のメンタリングを終えると、指摘や助言からの気づきと課題を踏まえ、12月に迎える中間セッションまでの重点テーマ・目標、実行計画を数値・定量化させた「宣言ピッチ」を全員の前で一人ずつ発表しました。


★実体験に基づいた愛ある〆の言葉
主催者を代表して葉田氏より、Vision Hackerたちへ〆の言葉が贈られました。
葉田氏「とても厳しいことを言ったと思う。でも、それは、関わる人たちを不幸にしないためにも、そして、サービスを届けたいと思う人たちにちゃんと届けられるようにしたいと思うからこそ言ったこと。結果がすべてだし、結果が出せないと馬鹿にされて、大切な人を守れなくなるんです。自分がずっとそうだったから痛感していること。これからみなさん、ピボットも何度もすると思う。今までやってきたことを疑うことは辛いことだが、疑うべきだし、やるか、やめるかしかない。自己満足のために人の命に関わることをすべきではないから」
◆おわりに
一泊二日という短くも極めて濃い時間を過ごし、明らかに前日と異なる面持ちになったVision Hackerたちが、そこには居ました。その顔は、〝期待に夢膨らむ〟と言えるものばかりではなく、困惑と悔しさの入り混じった表情を浮かべる方の方が多かったようにも見受けられました。方向は様々でも、VHAに参加したからこそ生まれたエネルギーであり、中間セッションまでに如何にトライ&エラーで実証し、キックオフセッションで受けた衝撃を昇華させられるか、新たな表情の仲間たちとの再会に乞うご期待です!